ワンシーズンに約30万人が登る富士山では、病気やケガなどによるさまざまな事故か発生しています。富士山で起こりやすい事故とその原因を事前に知って、安全な富士登山を目指しましょう。
近年のブームもあって、気軽な感覚で登ろうとする人が後を絶たず、富士山での登山事故が増加しているます。富士山は空気が薄く、気圧も低いので体には大きな負担がかかりり、さらに独立峰であるため気象環境も極めて厳い山です。つまり富士山は、スニーカーにジーパン姿のハイキング感覚で登れる山では決してないということ。装備や体調を万全にして臨まなければ、命を危ぶまれる事故に遭遇する恐れもあります。こうした事実としっかり向き合って、しっかりと準備をし、安全な登山を心がけましょう。(協力:富士吉田警察署)
夏山遭難の原因のほとんどは高山病をはじめとした病気によるもの。標高が高く気圧の低い富士山では、体内の酸素量が少なくなってしまいます。このため疲労感や脱力感、頭痛、食欲不振、さらに重症になると吐き気や嘔吐などの症状が現れます。
富士登山競争に参加の男性 (59歳)が係員から棄権を促されたが競技を続行。間もなく倒れ、病院に搬送された。
豪雨の中、ウインドブレーカーのみの男性(23歳)が低体温症になり、自力下山が困難に。救助隊に救助された。
転倒して骨折や捻挫などをするケースが多くみられます。転倒の主な原因は「不安定な状態の浮き石に足を置いたためにバランスを崩す」「体力不足で足腰の踏ん張りが利かない」など。また、ほとんどが下山中に発生していることから、登頂後の気の緩みも大きな要因といえます。
登山前に地図や指導センターで、急斜面や悪場など転倒しやすい危険個所を調べておきましょう。
登山道にはグラグラと不安定な状態の浮き石が多数ります。踏まないよう注意してください。
下山時こそ油断大敵です。登り同様、こまめに休憩を取りながらゆっくりと慎重に下りましょう。
男性(48歳)が八合目付近を下山中に、岩石の多い場所で足を取られて転倒。右足を骨折しヘリで救助された。
七合目付近を下山中の女性(30歳)が砂利で足を滑らせ転倒。左足首を捻挫し、救助隊に保護された。
夏の富士山では登山道から外れるようなことがない限り、道迷いで遭難にまで至るケースはありません。
一方、仲間とはぐれたり、分岐を目違えて、予定とは違うルートを進んでしまう場合があります。視界の悪いときには、特に注意が必要です。
自分や仲間か遅れそうになったときは声をかけ合い、一人にならないようにしましょう。
道に迷った場合や仲間とはぐれた場合の緊急連絡手段をあらかじめ決めておきましょう。
ツアー参加の女性が不明となり捜索したところ、分岐で道を間違え、須走口に下山していたことが判明。
帰りのバスを利用予定の男性が、下山しないため捜索したところ、報告なく自宅に帰宅していた。
7月始めの雪解けや梅雨、台風などの時期には、地盤がもろくなり落石の危険性が高まります。またピークシーズンは登山者が増えることで浮き石による落石が増えます。落石に当たらないよう注意するのはもちろんですが、落石を起こして自分自身が加害者にならない様に注意することも大切です。
登山道を外れると、地盤かもろく崩れやすい場所があるため落石の危険が高まります。
周囲の音に耳を傾けて、カラカラと小石の崩れる音か聞こえたら注意。大きな落石の前兆という可能性もあります。
落石を発見したり、自分が落石を起こした場合は「落石」と大声で周囲に知らせましょう。
落石に気づいたら、岩陰やくぼみに身をかがめるなど落石のコースから速やかに避難してください。
友人と登山中の女性 (29歳) が九合目 で落石に遭遇。額を挫創し、富士山レンジャーに救助された。
下界は真夏でも富士山頂の気温は真冬並みです。風雨ともなれば体感温度はさらに下がり、低体温症を引き起こすこともあります。一方、好天時は熱中症に注意して。六合目を過ぎると高い木がなくなり、直射日光にさらされるため、だるさやめまい、頭痛などを起こしやすくなります。
熱中症を防ぐために帽子をかぶりましょう。また、こまめに休憩を取り、水分や塩分を補給してください。
体に異常を感じたら無理をせず、すぐに救護所や山小屋で手当てを受けて、症状の悪化を防いでください。
富士登山競争に参加の男性 (59歳)が係員から棄権を促されたが競技を続行。間もなく倒れ、病院に搬送された。
豪雨の中、ウインドブレーカーのみの男性(23歳)が低体温症になり、自力下山が困難に。救助隊に救助された。
突風でバランスを崩したり、岩や雲の上で足を滑らせたりすることで、斜面を滑り落ちてしまう滑落事故。骨折などの重傷や、最悪の場合頭部損傷や内臓破裂で命を落とすケースもあります。残雪のある7月上旬、降雪や凍結の始まる9月に登山する場合は特に注意してください。
滑落事故は、下山時や疲れたときに起こりやすいので、体力や技術に合わせたプランに申し込みましょう。
九合目付近を下山していた男性(27歳)がバランスを崩し、約10m滑落。右足太腿部を負傷し救助された。
事例2八合目を登山中の男性(45歳)が数日前に降った雪で足を滑らせ、約10m滑落。左足首を捻挫し救助された。
落雷事故は件数としては少ないのですが、発生すれば即、命にかかわる恐れがある怖い事故です。
雷雲の中に入ってしまったら金属類を体から遠ざけ、登山道の鉄ピンは落雷する可能性があるので近づかない様にしましょう。
登山中、積乱雲の発達に気づいたり、雷鳴か聞こえたりしたら速やかに山小屋に避難しましょう。
万が一、雷雲の中に入ってしまったら金属類を体から遠ざけ、岩のくぼみやシェルターなどを利用してできるだけ低い姿勢で通過を待ちましょう。
登山道の鉄ピンに落雷する可能性があるので近づかない様にしましょう。またロープにも電気が流れるので触らない様注意してください。
8月の午後1時50分ころ、下山中の男性に落雷。右肩から両膝にかけてヤケドを負い死亡した。